【スペック】全長×全幅×全高=4845×1850×1450mm/ホイールベース=2760mm/車重=1810kg/駆動方式=4WD/4.2リッターV8DOHC40バルブ(340ps/7000rpm、42.8kgm/3400rpm)/車両本体価格=915.0万円(テスト車=同じ)

アウディS6(5AT)【ブリーフテスト】

アウディS6(5AT) 2001.01.18 試乗記 森 慶太 ……915.0万円 総合評価……★★★★

高尚すぎて

嵐のなか、髪乱れず「タクシーサイズのセダンをドーピングした最強モノ」ということで、S6はAMGのE55やBMWのM5と同列の商品である。
そのなかにあって、S6の特徴はまず値段が安いこと。他2台と較べて「格落ち」な印象を抱かせないデキなのに、915.0万円。E55の1450.0万円やM5の1350.0万円を前にすると、非常に良心的な設定だ(余談だが、マゼラーティ・クワトロポルテV6エボの890.0万円は体験できる世界の濃厚さを考えると、さらに輪をかけてオトクだ)。
それと、S6はとにかく上品。というか、フツーのA6が持っている「抑制の効いた見た目」や「クールな乗り味」を極力キープしている。「トンデモなさ」や「アツさ」を前面に出してくるのがむしろ当たり前のこのジャンルにあって、非常にマニアックなアジつけ。アウディ一流のスタイル≒美学。彼らが自らに許す「振れ幅の狭さ」みたいなものを強烈に感じさせる。たとえばの話、「砲弾飛び交う戦場のただなかにあってタバコをポイ捨てしない精神」というかなんというか。
それだけに、メイン顧客層となるニワカカネモチ暴走族層へのアピールは希薄かもしれない。あるいはS6、クルマ好きのコドモの心にビンビン訴えかけてくるようなクルマでもまたない。高尚すぎて。「ITエリート御用達」とかなんとかいえばもっともらしいが、それもけっこう絵に描いたモチではないか。で、S6はいいクルマ? ええ、モチロン。

【概要】 どんなクルマ?

(シリーズ概要)
アウディの「Sモデル」は、各「Aモデル」を、よりスポーティに仕立てたもの。S3、S4、S6、そしてS8がラインナップされる。いずれも、高出力エンジン、「クワトロ」こと4WDシステム、豪華な内装、を特徴とする。S6は、アッパーミドルサルーン、A6に、A8用4.2リッターV8を押し込んだ。A6に遅れること約2年、1999年のフランクフルトショーで登場した。
(グレード概要)
S6用の4.2リッターV8は、A8のものをチューン、出力が310psから360psに引き上げられた。トランスミッションは、本国では6段MTとシーケンシャルなスポーツシフトが可能な5AT「ティプトロニック」が用意されるが、日本にに入るのは後者のみ。アルカンタラと革をふんだんに使ったインテリアがジマン。特製Recaroシートは、スライド、リクライニングはもちろん、ランバーサポートも電動で調整できる。

【車内&荷室空間】 乗ってみると?

(インパネ+装備)……★★★★
見た目の品質や組み付け精度の高さが光る。いわゆるデザインも、それらの裏付けがあって初めて成立するタイプ。要するに、見て触っていかにもモノがよさそう。そこのところにかけてはビーエムやベンツより確実に上。「こういうクルマ作りをしたら儲からない」と某非民俗系独メーカーのデザイナーがいっていたらしいが、やはり。これをマネたらしき最近のトヨタ車のダッシュボードがこれほどありがたくないのも、やはり。ハンドルがチルト、テレスコピックともにたっぷり調整可であるのは、アウディいつもの美点。
(前席)……★★★★★
このシートは、おそらくレカロの市販品を表皮だけ専用品に交換した仕様。見た目のたっぷり感も含めて1000万円級のクルマとしてはいかがなものかと思いきや、座ってみるとお見事。シートそのものが素晴らしいというよりは、車体側の乗り心地とのマッチングが絶妙。カッチリしまったかけ心地とさり気なくタイトなホールド感、および滑らない表皮(といっても裏皮調だ)の触感は、まるでS6専用にイチから誂えられたかのごとし。長時間座っても疲れ知らず。かつ気分がダレない。つくりのカッチリ感もクルマ相応で高レベル。
(後席)……★★★★
デカいセダンのリヤシートとしては、ちょっとギョッとするほどハード。いやファーム。前席同様かそれよりもっと、乗員をデレッとさせることを重視していない。ただし、生物学的な意味での快適さは決して低くない。日本人が思う種類のドイツ車らしさはきわめて濃厚。たとえば背もたれの湾曲あたり、大筋間違ってはいないけれど微妙に気がきかない印象アリ。そのへんはアウディ特有。「さすが学究肌」とかいいたくさせる部分だ。
(荷室)……★★★★★
見事に四角く、かつ奥に深い。内装に匹敵するくらい丁寧なトリム。ルイ・ヴィトンの特大トランク(むしろツヅラに近いか)でも積んでやりたくなる。なお、アウディのエラいところは、同じクルマでもFFとクワトロとでトランク容量が違うところ。臓物が少ないFFはちゃんとそのぶん床が低くなっている。ただしもちろん、S6にFFモデルの設定はない。

【ドライブフィール】 運転すると?

(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
ガスペダルの軽さその他(おそらく燃調とかスロットル開度特性か)も効いて、とにかく「スッコーン!」と速い。ドロンとしたところがどこにもない。普通のクルマから乗り換えると、初め1、2回ほどはお下品に強烈な発進加速をしてしまうかもしれない。でも慣れる。
インスタントな速さでいえばE55はさらに上だが、アウディV8はエンジンそのもののありがたみが濃厚。メルセデスベンツのV8が、ダイエット型3バルブになってしまった今となっては、俄然、輝きを増した。澄んだ音。ハイテックな回り方。それらの点では、特濃ソースを思わせるビーエムV8とは対照的なキャラ。オートマは、特に違和感なし。逆にいえば、それ単体が強く印象に残るほどよくもなし。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
冷えきった状態からスタートすると、路面からのアタリはけっこうキツい。コツコツくる。それが、しばらく乗るうちに徐々にコナレてくるのがわかる。アタリだけでなくクルマ全体が。
クルマとはすべてそういうものだが、S6はそれがことにわかりやすい。本調子(?) になるまでに、寒い季節だと20分から30分はかかるのではないか。ある意味マゼラーティあたりに一脈通ずるこの特性は、いかにも本格派のマシンという感じでむしろ「可愛げポイント」だと思う。ディーラーに試乗車がある可能性は低いが、もしあった場合はお客様がお試しになる前にウォームアップを済ませておくことをお薦めする。
で、乗り心地は基本的にいい。フロントに255と太いタイヤを履いていることを考えると、直進マナーも優秀。対ワダチ性能も高い。さすがはクワトロ、ということなのか。
走って嬉しいのはやはりというか高速道路。かなり無敵なモノがある。超高速下、車内はさながら茶室のような静謐さ。速度に対する(主として恐怖の)感覚がまるっきり変わってしまう。安心感が高すぎて、かえってコワい。一方で、ジョイスティック度の少々高いステアリング等が災いしてか、峠をトバしても別に楽しくない。というか、特に魅力が輝かない。レールなき路上をあたかもレールがあるかのごとくに走ってしまうクワトロは、その見えないレールをワザと外れるような走り方をするとちょっとヘン(別にいいけど)。そっち方面はM5に任せる、という感じか。それはそれで個性。得難いキャラクターである。

(写真=小河原 認)

【テストデータ】

報告者:森 慶太
テスト日:2000年11月18日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2000年型
テスト車の走行距離:-
タイヤ:(前)255/40R17/(後)同じ
オプション装備:-
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6):高速道路(4)
テスト距離:-
使用燃料:-
参考燃費:-

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